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 このように手描き図面とパソコンCADシステムが混在していた時期、取材に訪問すると、ある意味では建築的であり、建築固有の興味深い場面に遭遇することがあった。

 多くの設計者がパソコンCADシステムによるデジタル情報の編集という面ではパソコンCADシステムの有効性を疑ってはいなかった。しかし、いざ設計者自身がパソコンCADシステムを使用する段階となると、従来の手描き図面の世界とは全く異なるため、悪戦苦闘していた。




 その時に話題となったのが「手描き図面の線には意味がある」という言葉だった。かつて日建設計も拘った鉛筆の濃淡表現。鉛筆の芯を削り、個性的な文字や数値を記入していく。烏口を研ぎ、わざわざ寸法線を交差させる。編集者として建築の外側にいたため、わざと挑戦的に「手描きの線に果たして意味があるのですか」と質問したこともある。中には、怒り出す設計者もいた。

 「パソコンCADシステムを用いれば、プロッタから出力される線は、昨日入社したCADオペレータのものも設計者のものも同じ」「そのことに意味を見つけないとパソコンCADシステムは戦力にならない」とも続けた。

 パソコンCADシステムはやがて設計者一人に一台となる。デジタル情報においては(全ての)情報がデジタル化されてこそ意味がある。(登場し始めた)パソコン通信でCAD図面を遠隔地に遅れるようになる。すると、多くの設計者が図面としての出力結果以上にデジタル化した建築データに意味があるのに気づき始めた。

 パソコンCADシステムの習熟度を上げ、貴重な戦力となったCADオペレータの仕事ぶりを目の当たりにしながら、設計者もそのことに気づき始めていた。これらの影響はやがて大きな広がりを見せていく。

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