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 設計におけるCADデータの重要性が高まっていく中で、クライアント側の意識も変化していった。そんな状況の変化を象徴するような出来事に出会った。

 ある時、竣工前であったが、日本電気の本社ビルを見学する機会を得た。見学に同行してくれたのは、電気設備の担当者で、竣工後は施設管理の仕事につくとのことだった。それであれば「CADデータが手に入れば楽なのでは」と聞いてみた。担当者はCADデータを入手できたとも、できなかったとも言葉を濁したが、そのことがずっと気になっていた。




 日本電気の本社ビルは日建設計が設計を担当した。同社のCADセクションの担当者とも関係が続いており、ある時、酒席でそのことを話した。当然のように、組織として立場があるためか、あくまでも一般論としての話となった。以下は推測であるが、その当時の問題点を明らかとするためにここの書いてみる。

 設計のCADデータは日本電気側に渡されたようであった。しかし建設自体はゼネコン側が行ったので、日本電気側にCADデータを手渡す以前に、ゼネコン側との調整があったこともわかった。そして公式には、設計データが手渡されたのか、竣工図データが手渡されたのは確認できなかった。

 短時間のやりとりであったが、そこに微妙な問題があるのに気がついた。設計事務所、ゼネコン、クライアントの間でCADデータの取り扱いについて何らの取り決めも明確に行われていないことが問題であると気がついた。

 第一に設計事務所とゼネコンの関係についてである。単純化すればこうなる。設計事務所側の立場に立てば、従来までは設計図書があくまでも商品である。手描き図面の段階では、「紙」としての設計図書を提供すれば事足りたが、CADデータを渡すとなると、そのCADデータには、前述したようにレイヤーの管理から内包されたマクロ・プログラムに至るまで、実にさまざまなルール、ノウハウが含まれている場合もあった。

 また設計図面がそのまま施工図面に援用できないとしても、CADデータとして一度、他の組織に渡れば、比較的、容易に加工もできる。勿論、そのことはデジタル情報のメリットであるから、受け入れるべきではあるが、問題はCADデータの流通について契約に至るほどしっかりとしたルールが確立されていなかったことだ。更にシリアスにいえば、CADデータに対する料金設定はできるのかという問題にも繋がっていった。

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