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top pagearchitecture>1982年〜[34]











 電子情報という側面から考えれば、手描きの図面は電子的な数値情報を伴わない一種の「絵」であった。パソコンCADシステムの普及と共に、設計組織の中では、さまざまな設計情報が電子情報へと姿を変えていった。
 問題は、これらの設計情報が施工現場に援用されていないことだった。勿論、そこには設計施工の割合が思いのほか低いというゼネコンの状況もあったし、設計図面がそのまま施工図には援用できない背景もあった。また、設計事務所からゼネコンに設計の電子情報を伝達するルールが確立されていない状況もあった。



 やがてこれらの課題を抜本的に解決しようとする試みがなされることになる。ある中堅ゼネコンを訪問した際のことだ。そこでは意匠、構造、設備にまたがるCADデータを運用する「新しい設計部」ともいえる組織が活動していた。この新しい設計部は、やがて施工現場とのパソコンCADシステムによる連携を模索し始めた。
 まず初めに彼らは設計部員を施工現場に派遣し、使用されているパソコンCADシステムの徹底的な調査を行った。設計部員が現場を訪ねると、前述したように、そこでもパソコンCADシステムを持ち込み、自ら施工図のCAD化を実践している所長達の存在を知ることとなった。  

 次にそれら施工図のCAD化に理解がある所長達を味方につけ、説得し、設計部内で確立したCAD運用のルールを浸透させていった。やがてそれらCAD運用のルールには施工図を描くためのルールにも追加されていった。 [34] パソコン通信で設計部と施行現場を繋ぐ  更に、そのゼネコンでは現場の所長の中から人材を募り、設計部内に常駐してもらう体制を作った。これらの試行錯誤により、その新しい設計部内でパソコンCADシステムを用いて、施工図を描く体制を確立することに成功した。



 一方で課題もあった。設計部と施工現場との間の距離の問題だった。施工現場では日々、さまざまな課題が発生する。極端にいえば、図面上の収まりがそのまま適用できないこともある。その際は、実データとしての実体的な建物の方を優先するため、逆にCADデータの方を後々、変更する必要もある。そして、それらの変更を設計部内の施工図に反映させなければならない。その問題をパソコン通信によって解決することを考えた。

 すでにパソコン通信は一般的になっていた。そこで、この設計部では、パソコン通信用のホスト・コンピュータ(パソコン)を導入し、自前の通信ネットワークを立ち上げた。  しかし、この段階でのパソコン通信は、通信速度が2,800bps。最新モデムが登場しても、ぜいぜい9,600bpsという状態であった。それらの環境を改善するための技術も普及し始めた。現在も利用されていたLZHなどのデータ圧縮技術であった。

 施工現場からパソコン通信のホストに接続すると、そこには施工図のCADデータ・リストが掲載されていた。施工現場でそれをダウンロードし、最終的な施工図に仕上げる。完成した施工図は、またパソコン通信のホストに送信される。これによって設計部内と施工現場間でCADデータの共有が実現した。

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