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 「iPodをつくった男 スティーブン・ジョブスの現場介入型ビジネス」(アスキー新書)。アスキー社の書籍広告には「三刷」の文字が踊っていた。売れているようだ。

 著者の大谷氏は1958年生まれ。本書を読むと、アップルとの関わりでは筆者とほぼ似たような経験をもっている。アップルとジョブス、そしてiPodに至った歴史を知るにはとてもよい内容となっている。




 本名はスティーブン・ポール・ジョブス(Steven Paul Jobs)。1955年2月24日生まれ。マイクロソフト社のビル=ゲイツ(Bill Gates)は1955年10月28日生まれ。同世代である。ジョブスの実父はシリア系の政治学者、実母はアメリカ人。誕生前から養子縁組が決まっており、ポール・ジョブス、クララ夫妻の元で育つ。

 今では当たり前となった一人に一台のパソコン(パーソナル・コンピュータ)。当時、コンピュータといえば企業ユースが中心のIBMの汎用大型コンピュータやミニコン。それに対抗するようなパーソナルなコンピュータ。その実現には、1960年代のカウンター・カルチャーが大きく寄与しているが、彼はそんな既存の価値観に対する反抗的な時代の雰囲気の中で育った。

 やがて1977年に、もうひとりのスティーブン、スティーブン・ヴォズニアック(Steve Wozniak)と共同でアップルコンピュータを創業する。最初に作ったのは基盤がむき出しのパソコン「Apple I」。マニア受けしたが、もっと普通の人にも使って欲しいと彼が考え、商品化したのが「Apple II」。初めてのパソコン出現となる。

 次のエポックはMacintosh。操作はキーボード、ディスプレイはテキスト(文字)表示。もっと使いやすく、見やすくならないか。そこでMacintoshに採用したのがマウスとディスプレイのアイコンをクリックするGUI。このアイディアはゼロックス社のパロアルト研究所(Palo Alto Research Center)に由来している。よく知られた逸話。同研究所を訪ねたジョブスは、この革新的なアイディアに注目し、Macintoshの製品化に活かす。

 もうひとりのスティーブン、ヴォズニアックは優れた技術者、ジョブスは総合プロデューサ的な役回り。iPod登場の背景には、時代が求めるニーズと市場の風が読めるジョブスの才能が大きく貢献している。




 彼はアップルコンピュータを追放されるなど、毀誉褒貶の時期を迎えるが、その間も、UNIXベースの優れたOS「NeXT STEP」の提供、コンピュータ・グラフィックス興隆を先取りしたピクサー社の経営など、深く静かに潜行し、次のチャンスを狙うべく先進的な活動を続けていた。

 その後、さまざまな経過を経て、2000年にはアップルコンピュータのCEOに復帰する。最初に取り組んだのが「NeXT STEP」とアップルコンピュータの既存技術の統合。UNIXに由来するオープンソース技術を積極的に取り込み、Mac OS Xを発売する。そして、同年、iPodとiTunesとによって音楽事業に参入し、音楽事業をパソコンと並ぶアップルの事業の中核へと育てた。

  iPod。携帯用の音楽プレーヤー。この分野で最初に成功をおさめたのは誰もが知っているソニーのウォークマン。カセットテープ、MD、メモリステックなどと記録媒体を進化させながら市場を開拓していった。
 すでにソニーが先行していた携帯用の音楽プレーヤー分野に果敢に切り込んでいったジョブス。誰もが当初は成功はないだろうと疑いをもっていた。

 インターネットの一般化と高速化。それと期を一にするようにP2P技術を採用した無料の音楽配信サービスも始まる。最初に市場を席巻したのは旧ナップスター社。やがて同社を全米レコード協会などが提訴、サービス停止に追い込まれ、2002年9月に倒産する。同社はやがて復活するが、インターネットでの音楽配信というビジネスモデル構築は難しいと思われていた。




 携帯音楽プレーヤーのソニーの先行、音楽配信ビジネスの困難さにあえて挑んだジョブス。成功の要因は何だったのか。

 本書にも詳しいが、ここでは別の側面に光を当ててみたい。

1. Mac OS Xの展開とインテルチップの採用
 余り語られていない要因。UNIXベースのOSで広く技術ノウハウを開き、それとの関連で採用したインテルチップでMacは最強のWindows互換機となった。アップルコンピュータのコンピュータを外し、社名をアップとしたが、Macが完全に開かれたパソコンとなったことで、逆説的に、同社は創立時の理想であったであろうパソコン・メーカーとなった。

2. iTunes Storeの展開
 音楽配信のベース・ソフトウェアの環境整備。パソコンに音源を効率よく取り込み、その後の管理もしやすい環境を提供した。CDをパソコンのドライブに挿入すると、インターネット上のデータベースにアクセスし、曲名・演奏者・アルバム名などが自動的に表示。これで楽曲管理も容易だ。

3.音楽配信(ビジネス)が主流となるとの先見性
 我が国でも単曲の流通では、音楽配信がCDの売上を抜きつつある。そんな状況となるのを見越したジョブスはレコード会社などと交渉し、音楽配信を行うべきだと自ら説得に回った。

4.操作性の面白さ
 iPod touchの操作性はとても面白い。二次元の平面である液晶ディプレイ上で、ユーザーにいかに使いやすい操作性を提供するか。前後左右にずらしたり、摘んだりという指の動作に自然に追随して動くのは見事だ。

5.ブランド・イメージの強化
 Windows互換機としたことで、WindowsユーザーがMacへ移行するケースも増えている。WindowsではMacは使えないが、その反対は可能だからだ。そしてiPodの提供でユーザーの裾のを広げた。一時は、iPodの白のイヤフォンばかりが目立つようになった。アップルのパソコンには熱狂的なファンがいた。一部のファンのアップルからより多くのユーザーに向けてブランド・イメージを強化した。

6.iPod(iTunes)ワールドの広がり
 音楽配信でレコード会社を説得したように、今度はソニー・ピクチャーズ、ユニバーサル・ピクチャーズ、パラマウント・ピクチャー、ウォルト・ディズニー、ワーナー・ブラザーズ、20世紀フォックスなどを説得したのだろう。米国1月16日AFP発のニュースにあるようにDVDが主流だった映画のオンライン・レンタルを開始した。
 更に続けて米国2月20日AFPのニュースでは英国BBCと提携し、テレビ番組の配信を介意した。
 このように次々とiPod(iTunes)ワールドの広がりをユーザーに見せることで、ユーザーに驚きと最新技術と手元に置けることの歓びを提供している。

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