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『ショートバス』来日記者会見
監督・脚本:ジョン・キャメロン・ミッチェル
音楽:ヨ・ラ・テンゴ
衣装:カート&バート
キャスト:ポール・ドーソン、PJ・デボーイ、リー・スックインほか
出席者:ジョン・キャメロン・ミッチェル監督、スックイン・リー
日時:6月4日(月)16時
場所:エクセルホテル
8月下旬 渋谷シネマライズほか全国順次公開ー
公式サイト:
ショートバス

 世界中を熱狂させた傑作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』から5年。

 待望のジョン・キャメロン・ミッチェル監督の最新作『ショートバス』が、2007年8月下旬、いよいよ日本公開となる。

 昨年のカンヌ国際映画祭でプレミア上映された待望の最新作『ショートバス』。カンヌを始め、全世界が驚嘆し、笑い、涙した話題作です。ニューヨークを舞台に描かれるのは本当の"セックス"&"愛"。自己のアイデンティティを、人との繋がりを、そして愛を求めて彷徨う7人の男女を描いた物語。

 ジョン・キャメロン・ミッチェル監督は『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』以来6年ぶり2度目の来日。スックイン・リーさんは今回が初来日。


Q:『ショートバス』を2作目に選んだ理由は?

ジョン監督:常々、セックスが映画の中でちゃんと使われていないと思っていたので、今までにない形で、きちんと描きたいと思っていました。作業にあたっては、役者に役に慣れてもらうようにしました。役者と一緒に脚本を書いていったりもしたよ。そしてそこからおもしろいキャラクターを選んでいった。これには2年半もの時間を費やしたよ。
(質問者に)日本語に「セックス」という言葉はありますか?

 いろんな言い方があります。

ジョン監督:そうでしょうね。だいたいセックスは一言では表せないし、セックスだけがセックスではない。映画においてセックスが描かれたのは、だいたいポルノか、思春期特有の少年のジョークかアートフィルムだけで、それらは最終的に悪いエンディングをむかえ、見たあとにセックスをしたくなくなる。

 私は、それらの間に話し合える言語の使い方があるのではないかと思いました。それをキャラクターを用いてメタファーを使いながら表していったのです。『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で音楽を用いたように、今回の『ショートバス』ではセックスを用いたわけです。

Q:衝撃的なテーマですが、この企画を聞いて参加しようと思った理由は?また、実際に監督と一緒に映画作りをしてどうでしたか?

リー・スックイン:一緒に仕事をしたいと思ったのは、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のときに一緒に仕事をして、現場でも作品自体も素晴らしい監督だと実感し、さらに仲の良い友人になったから。『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のときに、「次回作を作る時には絶対に声をかけてね!」と監督に頼んでおいたの。そうしたら、電話があって、『ショートバス』のアイデアを説明されました。

 最初は「そんなことするの?!」と驚いたんだけど、こんなことができるとしたら監督しかいないと思いました。自分の中に「どんなふうになるんだろう」という好奇心もあったし。冒険だという気持ちもあったけど、監督のビジョンを信頼していたので、オーディションを受けたいと思いました。

 オーディションを実際に受けて、合格の知らせを聞いた時、その瞬間は「やったー!!」と大喜びしました。でも次の瞬間には「こんなのに参加して大丈夫かな」という不安も頭をもたげました。

Q:即興演出のプロセスは?

リー・スックイン:オーディションの時から俳優に即興力があるかどうか見極めるプロセスがありました。

 たとえば、監督がある状況設定を用意し、複数の俳優に別々の目的、思惑を与える。しかし、そのことを本人以外の俳優には知らせない。そのようにして、別々の思惑をもった複数の俳優がおなじ空間でそれぞれ自分の目的を達成しようとするという風に。
その中では、当然思惑どうしがぶつかり、さぐりあいなどのプロセスや葛藤が生まれます。そこに、それぞれのキャラクターを象徴するもの、性格的なものが出てくるのです。

 相手が投げてくるものに対して、いかに即座に反応するかが重要。そのようにして出てきたもののなかから、監督がいいものだけを選んで脚本に反映させました。

Q:主人公のソフィアはアジア系カナダ人というマージナルな設定だが、それはなぜ?

ジョン監督:オーディションをした中で彼女が最高の女優だっただけで、アジア系カナダ人というところが重要だったわけではありません。
 オーディションは基本的に誰でも参加可能なようにWEB上で行い、50万ものヒットがありました。そこに送られてきた500本のテープの中から40人を呼んでオーディションをし、最終的に9人を選びました。

 オーディションテープでは自分のセクシャルでエモーショナルな体験について語ってもらいました。そこで語られたことが事実かどうかは確かめようがありませんが、役者の言葉を信じて行いました。
 オーディションを受けてくれた人の中から、ゲイ、レズビアン、ストレートなどいろいろな人を選びました。(レズビアンのカップルは結局みつけられなかったが)そのようなオーディションの中で最もよかったのがスックインだったわけで、彼女がアジア系カナダ人だということは重要でなかったのです。

 しかし、即興の中で、中国人の家庭環境に育ったということを盛り込みました。彼女にはセックス=悪いもの、体=悪いものという思想におさえつけられて育ってきている背景がある。

Q:スックインさんのお気に入りのシーンは?

リー・スックイン:『ショートバス』にはすばらしいシーンがたくさんあり、1つに絞るのは難しいのですが、今、思い浮かんだシーンの話をしますね。

 映画の最後の方で、ソフィアがセントラルパークのベンチに座っていて、そこに波が寄せてき、水が入ってくるというシーンです。その時ソフィアはどん底の状態にいて、そのシーンはまるでシュールリアリスト(マルグリットのような)の絵画のよう。観客は「これはソフィアの想像の世界なのだろうか?それとも、現実の世界なのだろうか?」と不思議に思う事でしょう。

 このシーンを撮影するときにはトラブルがいくつかありました。ひとつは、カメラオペレーターがクリスチャンだったためゲイが苦手だったようで、映画の内容を知って、その日に降りてしまった事。だから、その日に急いで他のカメラマンを探しました。
また、その日はたまたまカブトガニが一年に一回交尾する日で、何千ものカブトガニが交尾している中、撮影しました。撮影中は足にもカブトガニが登ってきたんですよ。

 映画というものは、トラブルを解決しながら撮っていくものですが、その日はまさにそんな日でした。でも、浜辺でリラックスした環境のなか、美しい現場で撮影できたと思います。

Q:『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』は日本人の役者で舞台化もされていますが、日本の高い評価についてどう思いますか?

ジョン監督:『ヘドウィグ〜』が日本や韓国でとても人気があって驚いている。

 日本に来る前に韓国に寄った際には、スタジアムコンサートがあり、7000人もの人たちの前で、韓国版ヘドウィグの人たちと一緒にかつらをかぶり、歌を歌いました。このようにユニバーサルにアピールしているのはすばらしいことですが、自分としてはそれがなぜだかはわからない。

 でも、来年は日本でもコンサートしたいね。まだ、誰も依頼してくれないけど(笑)。
その時は、ステージダイビングに気をつけなければいけないと思っている。韓国で小さい女の子をつぶしそうになったからね。

Q:劇中に使用されているNYの街のジオラマがすばらしいでき栄えですが、製作者のジョン・ベアーはどんな人?

ジョン監督:ジョン・ベアーは『ヘドウィグ〜』でも弾むかつらを描いてくれました。普段は商業的なアニメーションを作っています。

 私はスタッフにも今までにしてきたことと同じことはしてほしくないと思っている。自由なのだから今までにやったことのない、新しいことをしてほしい。

 この思いは『ショートバス』が象徴する物でもあります。新しいことをするに当たっては常に、互いのサポート、互いへのリスペクトがうまれる。それを観客にも伝えたいと思っています。サントラも同じスピリットを持っていて、役者も一緒に歌っています。

Q:なぜNYの街をCGアニメにしたのか?

ジョン監督:まずNYの街を実際に停電させるのは予算的に無理でした。私たちの映画ではブラピがフェラチオされていないので、停電させられるような十分な予算はとれません。

 そもそも『ショートバス』はNYのおとぎ話であって、ありのままの街を直接に描いている物語ではありません。たとえばこれはウディ・アレンのような物語…彼がリラックスしてセックスしたらこんなかんじになるでしょうし、彼が14丁目より下にくだればこんな物語になるでしょう。

 『ショートバス』はNYのストーリーであり、NYのラブレターです。同時に、移民の物語でもある。ここで描かれているのは、NYをホームタウンとしない、アメリカ中から集まってきたフリークス・変人たちの話で、これらをちゃんとした形で描いたつもりです。

Q:ぼかしが入れられていますが、ちゃんとイメージを伝えられると思いますか?

ジョン監督:まず、この表現規制はとても残念なことだと思っています。見る人も大人なのに、大人が何を見れるか見れないかということを第三者が決めるのはオールドファッション。子供が見るものに対する規制であれば理解できますが。でも、日本で見てもらうためにはしかたがなかった。韓国では、禁止されてしまって、ひどいことだと思いましたが、韓国の友人には「ダウンロードすればいいよ」と伝えました。

 この映画を見てもらうもっともよい方法は、グループで集まって見てもらうことです。最初のシーンは疲れるかもしれない。それは、ぼかしのあるなしにかかわらず、何が起こっているか解るから。しかしこの映画がもたらす意味を、きっと解ってもらえると信じています。

リー・スックイン:この映画は映倫の人に「絶対ぼかしを入れなければだめ」と言われていました。ぼかしは監督立会いのもと、NYで行われました。

 その場に映倫の人もいたのですが、「これほど美しいぼかしはみたことがない」と言っていました。

ジョン監督:そのぼかしはジョン・ベアーがしたものだ。

Q:日本は性に対してそれほどオープンではありません。この『ショートバス』は、日本でどのように受け止められると思いますか?また、どのように受け止めてほしいですか?

ジョン監督:『ヘドウィグ〜』が日本や韓国で人気なのはなぜだかよくわからない。日本は全体的に保守的なイメージでもあるし。だが、アートムービーではぼかしがいれられているのに、漫画ではセックスシーンがおもいきり描かれていたりする。例えるなら、もぐらたたきのようなもので、こっちを叩けばあっちが出るという感じなのでしょう。セックスが変な形に歪曲されて出てきてしまう。日本はヨーロッパなどにくらべて、ゲイを歓迎しなさそうなイメージですが、『ヘドウィグ〜』は受けていて…。

 『ショートバス』自体はいろんな文化圏の中のストレスを取ってくれるものです。多くの人が知っているように、セックスは人生の一部であり、複雑なものです。セックス中「なんでこんな体位になっているのだろう」と思うことがありますが、これは人間の矛盾であると考えます。

 この作品は万人に理解されるもので、ある意味ハリウッド的です。ただリアルなセックスがあるだけで、作品そのものはおかしく、楽しく、スウィートです。他の映画で描かれるセックスはダークですが、人生の中のセックスには喜び、ユーモア、退屈、友情などいろいろな要素がふくまれているはず。人生で誰かとつながりたいと思うように、この映画にもチャンスを与えてみてほしい。そうすれば『ヘドウィグ〜』と同じように気に入ってもらえるかもしれない。ゲイの人にもストレートの人にも、幅広い層の人に見てもらいたいですね。実際セックスは笑いあり涙ありで、いろいろな状況があり、それはまったく人生と同じです。作品を見た人からは「思っていたのとは違う印象」と言われることが多いんですよ。

 ポルノは発展している国ではセックスについて学ぶ方法たりうるかもしれませんが、同時に消費され、カテゴリー化されていきます。まるでショッピングだ。そこに喜びはあるでしょうか。感情も薄れていくのではないでしょうか。

 たとえば、私が13歳のときにこの映画をみていたら、友情や笑いなどいろいろ学べて、人生がもっと楽になっていたでしょう。ポルノではそうならない。区別や壁を感じることがあり、しばしば罪悪感をおぼえます。

 セックスが教えてくれることはたくさんあります。スックインはこの作品に出演することが原因でカナダの放送局をくびになりかけましたが、そのとき、オノ・ヨーコらが応援の手紙をくれました。オノ・ヨーコはセックスについてちゃんと話し合えば、暴力はなくなるという。コッポラやジュリアンムーアもスックインをサポートしてくれた。そうして放送局は撤回せざるをえなくなった。セックスは悪いばかりではなく、いろいろなことを教えてくれるのです。

Q:9.11の影響は?

ジョン監督:9.11はNYに直接的な影響を与えました。また、全世界に、わたしの友達にも影響を与えた。

 私の友人の反応は様々でした。自分のやっていることに意味を見いだせず、仕事を辞めてしまう人もいれば、復讐のために戦争に行くという人もいた。ブッシュのように、誰でもいいから撃ち殺すという人もいる。家族を求めてNYから引っ越す人もいれば、 NYに攻撃するだけの価値があるならそこに住もうとNYに引っ越す人もいた。この映画は、私の9.11に対する反応です。私は希望を見つけたい。

 9.11後、空気にネガティブなものが漂い、皆が自分の無力さに気づき、変化を求めていました。私は人々に「自分にもなにかができるんだ」という希望を与えたかったのです…ちょっとした薬のようなものを。

 この映画は人にある問を投げかけるでしょう。「一人になるべきか、ならざるべきか」という問題です。性的な問いでもありうるし、またロマンチックな意味でも、家族的な意味でも、政治的な意味でもありうる。登場人物もまたこの問題を通過しながら、未知のものに対する恐れなしに、希望や調和をひろげていくのです。

 NYの大停電の夜、人々はまたテロが来たと思い、死ぬかもしれないと感じました。でもただの電力の使いすぎだとわかり、生きていると実感し、とても安心した。その時には暴力や略奪もありませんでした。部屋にはただロウソクがあり、人と人とが対峙していた。もっとも平和な瞬間であり、人々は人生を実感していたはずです。

 だからそんなすばらしい停電が1年に1度あればいいのに。この『ショートバス』がそんな存在になれればと願っています。

(C)2006 Safeword Productions LLCReserv
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