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 バベル(BABEL)。言葉が通じない。心も通じない。想いはどこにも届かない。私たちは争いが絶えない世界の住人である前に、同じ星に生きる命のひとつではなかったのか? 今、モロッコで放たれた一発の銃弾が、アメリカ、メキシコ、そして日本の孤独な魂をつなぎあわせ、息をのむラストへと加速する。

バベル(BABEL)予告編はベストライフ・オンライン「最新映画情報」から

 この名前を聞いて思い浮かべるのは旧約聖書の世界を描いた映画「天地創造」。エデンの園を追われたアダムとイブの子孫は幾世代かを経た後、支配と被支配の関係を作り、出現した王によってバベルの塔の建設に邁進する。

 天空に至りたいという人々の欲望を知った神は、戒めのために嵐を起こす。

 やがて嵐が過ぎ去り、世界が静まると、人々はお互いの言葉を理解できず、底知れない恐怖を抱え、いくつもの集団に分かれ、別々の方向に歩いていく。

 その時から、異なる言葉をもつ集団の間で、いかにして通じ合えるのかという今日的な課題が与えられた....。




 物語の舞台は、モロッコ、アメリカ、メキシコ、日本。人々を隔てる異なる3つの大陸と4つの言語。

 アメリカ人の若い夫婦がモロッコを旅している。荒涼とした風景の中を、彼らを乗せたバスが走っている。夫婦は自国に幼い二人の子供を残し、和解のために旅している。何故、モロッコにやってきたのか。やがて物語の中で明らかにされる。

 妻はこの旅を楽しんでいない。露天のカフェでも現地の水で作られた氷を決して口にはしない。それを平気で口にする夫の無神経さも非難し始める。バスに乗っても虚ろな表情で車窓を眺めているだけだ。

 羊の放牧をしているモロッコ人の家族がいる。大切な財産の羊を狼から守るため、家長はある男からライフルを譲り受ける。若い兄弟は父親から渡されたライフルをすぐに試射する。
 射撃が上手な弟と何度も的を外してしまう兄。そんな兄を疎ましく思っている父親。早熟な弟は姉の着替えをのぞき見し、丘への斜面にある岩の陰で、股間に手を入れている。 この兄弟には、天地創造に登場するカインとアベルが投影される。家族のつつましい日常の中にもある兄弟の亀裂。

 ライフルを持ち出した兄弟は丘の上からライフルを撃ち始める。やがて二人は眼下に見えるバスを標的にする。的となったバスを外す兄。それを見た弟はライフルを取り上げ、バスを射抜いてしまう。




 夫婦の故国、アメリカではメキシカンの女性が子供の面倒をみている。ある日、夫が電話すると、「結婚式に行くため今日は子供達の面倒がみられない」と告げる。彼女は手を尽くすが、子守の代役はすぐには見つからない。

 迎えにきた親族の若い男の車に子供達を同乗させ、メキシコへの国境を越える。豊かなアメリカの国境を越えると、明らかに風景が変わる。不安そうな子供達。

 それでも結婚式場に着くと、二人は言葉は通じないものの、メキシカンの子供達とすぐに楽しそうに遊び始める。

 結婚式も終わり、二人を送り届けるために、アメリカに向かい、再び、国境を越えようとする。出国は容易だが、アメリカへの入国は困難だ。不法移民の摘発を強化している国境警備員は、若い男の飲酒運転を咎め、四人は国境を強行突破する。




 スクリーンにはいつもの渋谷の街角が映っている。弾けるように、じゃれ合っている女子高生のグループがいる。若い男の子達も彼女達に視線を送っている。

 その視線に気づくと、男の子の品定めを始める。会話は手話だ。男の子達はそれに気がつくと、ひいてしまう。いつものことなのだろう。一人の女子高生は苛立っている。

 やがて、彼女は、迎えにきた父親の車に乗り、帰宅する。父親は「歯医者の予約に遅れないように」と、諭し、彼女は治療に向かう。

 診察台に乗った彼女は、治療のために顔を近づけた医師にキスしようとする。「誰かと繋がりたい.....」。理解不能に陥った医師は怒り、追い出されてしまう。

 彼女の父親を刑事が訪ねてくる。彼女は自殺した母親の死因をまだ警察が疑っているのかと不安を覚える。刑事を自宅に招き入れ、話しを聞くと、質問はかつて父親が所有していたライフルについてだった。突然、彼女は服を脱ぎ、刑事の前に全裸で立ちつくしていた。




 アメリカでは民主党が上下両院で多数を占め、アメリカ国内に入国した不法移民をどのように取り扱うのか喧しく、議論している。ブッシュは国境に強固なフェンスを設け、越境監視を強化しようと目論んだが、民主党や共和党の中からも、非現実的だと非難されている。

 アメリカの主要産業である自動車業界は人件費が極端に安いメキシコに多くの工場を移している。その結果、国内の雇用は激減し、労働者達は怒っている。メキシコ現地での雇用は増えているが、給与は現地水準。そのカラクリを知っているメキシカンは国境を越え、アメリカに不法入国しようと試みている。

 経済のグローバル化は、アメリカとメキシコのような国境を接している地域で先鋭化している。国家はさまざまな歴史的な背景から、人為的な国境を維持しようとする。一方で、企業の資本は、まるで水か低い方に雪崩を打って流れるように、軽々と国境を越えていく。その結果、経済格差は顕在化し、問題は経済的な局面を越え、政治的、日常的な対立を再生産している。

 これを書いている2007年1月末。CNNからは増派されつつあるイラクのアメリカ軍が過激派への掃討作戦を強行し、画面からは「200人以上の過激派を殺害した」との声が聞こえてくる。
 パレスチナでは、9ヶ月ぶりに自爆テロがあり、ファタハ傘下のアルアクサ殉教者旅団などが犯行声明を発した。ヨルダンでは、背後にあるアメリカとシリアの影に怯えるかのように、シーア派とスンニ派の代理抗争が激化している。アメリカのイラクへの介入が中東地域でパンドラの箱を開けてしまった。

 言葉、伝統、文化、国境を越えて、イスラムを理解しようとは思う。しかし、膨大な数の銃器が溢れる中、対立抗争を煽り、戦闘志気を高めるように、空に向けて発砲するイスラムの男達の映像を目にすると、アメリカ人は特に恐怖を覚えるはずだ。

 世界は取り返しのつかないところまで亀裂を深めてしまったのか。異なるものへの畏れは人にとって原初的なものだ。それでも人々は数多く繰り返された悲劇を振り返り、違和を越えようと務めている。一方で、その違和を広げているのは国家という機構だ。アメリカ、メキシコ、イラク、ヨルダン、パレスチナ.....。権力構造の上位にいる人たちは不法に国境を越える必要もなく、ましてや戦場には向かわない。

 この物語は個人としての、ささやかな和解への希望を明示して終わる。狙撃された妻の看病をする中で夫婦は和解へのきっかけを得る。

 モロッコの寒村に横たわった彼女の痛みを和らげようと薬タバコを差し出す老婆がいる。その村の若者は献身的に協力する。

 救助にやってきたヘリコプターに乗ろうとしたとき、夫は感謝の気持ちからドル紙幣を若者に渡そうとする。それを断る若者。悲しいかな、感謝を込めたとしても、ここに現在のアメリカの誤解が顕在化している。

 国境を強行突破し、当局に囚われたメキシカンの女性は係員の前で、強制送還しないように懇願する。彼女はかなり以前に不法入国し、生活拠点はアメリカ国内にある。税金も納めている。面倒をみていた二人の子供も無事だ。それでも全てを失い、メキシコに送還される。きっと、もう一度、国境を越えるはずだが.....。

 ライフルの出自を確かめにやってきた刑事の前に全裸で立ちつくした少女。最初から受け入れないことはわかっていた。彼女は刑事にメモ書きを渡す。何が書かれていたのか。やがてそれも明かされる。

 父親が家に戻ると、彼女はまだ全裸でバルコニーに立っていた。無言で二人は抱き合う。

 それぞれの国家、地域の中で、ささやかな日常の中で、一人の人間、個人としての和解は可能なのかもしれない。しかし、そんな個人の努力を無にするように介入するさまざまな国家の機構を撃つことなく、和解は困難なのかもしれない。この物語は、そんな永続的な課題を突きつけてくる。




 バベル(BABEL)は第79回アカデミー賞において作品賞、監督賞/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、助演女優賞/菊地凛子/アドリアナ・バラッザ、脚本賞、作曲賞、編集賞にノミネートされた。

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督コメント
 この賞は、この映画を一緒に作ってくれた1,200人の人たちを代表して受け取ります。1年以上、3大陸5ヶ国語を使ってこの映画を作ってきたけど、どれだけ多くの言語を使おうとも、映画の力はユニバーサルです。最終的には、人の感情というものは国境を越えていくんです。
 そして、今そこに座っている美しいキャストのみんな、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、菊地凛子、そして役所広司。そのほかキャストたち本当にありがとう。他のメキシコの映画産業にとっても大きな貢献をできたと思います。
※第59回カンヌ国際映画祭:監督賞受賞時

菊地凛子さんコメント
 大変光栄です。パリにいてこんなニュースをいただけてすごくうれしいです。両親にすごくいいプレゼントになったと思います。当日また会場でみんなに会えるのが楽しみで、今からわくわくしています。

役所広司さんコメント
 映画にとって、作品賞に輝くということは、一番名誉なことです。この作品は長年にわたって多くの観客に愛される映画だと思います。

監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ『アモーレス・ぺロス』『21グラム』/
脚本:ギジェルモ・アリアガ
キャスト:ブラッド・ピットケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、菊地凛子、役所広司ほか
提供:ギャガ・コミュニケーションズ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ powered by ヒューマックスシネマ

公式ホームページ(日本語版)
2007年4月ゴールデン・ウィーク全国ロードショー公開

(C)2006 by Babel Productions, Inc. All Rights Reserved.

2007.01.30掲載
世界最速のインディアン(The World's Fastest Indian)
素粒子(ELEMENTARTEILCHEN)
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