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 いつか眠りにつく前に(原題:EVENING)。

 死を迎えようとしている時、人は何を思うのだろうか。起こることはいつも偶然の産物、起こってしまえば必然に思える。過ちもたくさんあった。でも、過ちも全て抱いてこそ自分の人生。

 ロードアイランドのニューポート。裕福なウィッテンボーン家の別荘に若者たちが集まってくる。ライラ・ウィッテンボーン(メイミー・ガマー)の結婚式の日。結婚式でブライズメイドをつとめるため学生時代からの親友のアン・グラント(クレア・デインズ)もやってきた。これから何が起こるのかも知らずに....。

 重い病で死の床についているアン・ロード(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は長女のコンスタンス(ナターシャ・リチャードソン)、次女のニナ(トニ・コレット)に見守られながら、最後の時を迎えようとしていた。朦朧とする意識の中で、アンは「ハリス」と口走る。二人の娘が聞いたこともない名前。それも男性の名前。アンは40数年前の、夏のあの日に戻っていった。

 監督は「マレーナ」「海の上のピアニスト」などで撮影監督を務め、アカデミー撮影賞にノミネートされたラホス・コルタイ。1946年4月2日、ハンガリーのブダペスト生まれ。ロードアイランドの夕焼けの海に、白いヨットが浮かぶ幻想的な夢のシーンなど、どこかスラブ的な感傷を感じる。音楽も美しい。「ネバーランド」でアカデミー賞作曲賞を受賞したヤン・A・P・カチュマレク。どこか懐かしく、今でも新鮮な1950年代の美しい衣装を再現したのは「イングリッシュ・ペイシェント」でアカデミー賞衣装賞を手にしたアン・ロス。

 キャストも素晴らしい。年老いたアンを演じるのは、過去6回アカデミー賞にノミネートされ、「ジュリア」での凛とした演技で助演女優賞を受賞した英国の名女優、ヴァネッサ・レッドグレイヴ。

 病床に横たわるアンを最後に訪ねる親友ライラには「ディア・ハンター」から「プラダを着た悪魔」までアカデミー賞史上最多の14回のノミネートを誇るメリル・ストリープ。そして、今をときめく若手の有望俳優が結集した。

 2008年2月23日(土)より、みゆき座ほかで順次、全国公開。予告編(Yahooムービー)




 学生時代からの親友のアンとライラ。境遇は違っても、姉妹のような仲がいい。アンはニューヨークで歌手としての成功を夢見て暮らしている。ライラは裕福な家庭で愛情に満たされて育てられた。

 今日は結婚式だというのに、ライラはどこか浮かない顔。ぎりぎりまでマリッジブルー。アンと幼なじみのライラの弟のバディも酒をあおっている。何が起こっているのだろうか。

 ライラの花婿は、両親も認めている裕福な家庭の青年。どこから見ても申し分ない。でも、アンから見ても、少し物足りないかも....。

 バディはアンを散歩に連れ出す。海辺まで歩いていくと、若い男がヨットで沖へ漕ぎ出そうとしていた。彼はウィッテンボーン家のメイドの息子で、マサチューセッツで医者をしているハリス・アーデンだった。アンは彼のことが気になり始める。

 別荘に戻ると、ライラがいない。レストルームからすすり泣きが聞こえる。何が起こっているのかわからないが、アンは結婚式をやめるなら、今が最後の機会。一緒に逃げ出してもいいと諭す。アンはバディからハリスがライラの初恋の相手であったのを教えられる。

 納得がいかないアン。ライラを問いただすと、ハリスに告白したが、恋愛感情がないとはっきりと告げられたという。ライラは、愛するよりも愛される人生を生きて行こうと心に決めていた。

 1950年代のアメリカ。まだベトナム戦争も、9.11も遠い先の出来事。女性は家庭に入り、夫に奉仕するのが当たり前の時代。アンは自立の道を目指すが、ライラは自分の運命を静かに受けとめていく。

 クロスロード。選択の道が二つに分かれている。どちらを選ぶのか。必ずしも、選択した道が、その後の人生を豊かにするとは限らない。人は時に、わざと間違った選択をする。選択は過ちなのだろうか。きっと違うはずだ。誰もが、たったひとつの自分の道を歩く以外ないのだから....。





 結婚式のリハーサル・ディナーが始まる。母親のウィッテンボーン夫人も満面の笑みで、花嫁となる娘を見つめている。

 ライラの気持ちが痛いほどわかっているバディは場違いな演説を始め、皆から白い目で見られている。誰も本当のことはわかっていない。泥酔したバディをアンとハリスは一緒に外に連れ出し、介抱する。バディが酔いつぶれていると、突然だった。ハリスとアンは口づけを交わす。

 何が起こったのか。アンにも最初はわからなかった。ライラの結婚式の後、アンとハリスは自分の夢を語り合う。ハリスとなら、自分が望んでいる未来を築いていけるかもしれない。そんな予感を感じながら、アンとハリスは浜辺で再び、強く抱き合っていた。

 二人の姿を物陰から見ていたバディ。アンと二人きりになる機会を狙って、アンに愛を告白する。バディには弟のような感情を抱いていたアン。愛を受け入れられないと告げる。

 下を向き、沈黙するバディ。突然、叫び声を上げて、バディは崖から海に飛び込む。時間がたってもバディは浮かび上がってこない。心配した仲間たちとハリスが海に飛び込む。もう駄目かもしれないと誰もが思った時、崖の反対側から、笑いながらバティが現れる。激怒したアンは「甘えないで自分の人生を生きて!」と厳しい言葉で叱責する。いってはいけなかった一言が悲劇を招くとも知らずに。

 ハリスへの思いが実らなかったライラ。幼なじみとして弟のように振る舞っていれば優しかったアン。恋愛とは切なくも、恐ろしいもの。叶わぬ思いは行き場を失い、孤独の中に落とし込まれる。惹かれ合う男女の思いは、それが強ければ強いほど、それ以外の思いを排除する。

 ライラはハリスとの別れを自ら選択し、新しい人生を選択した。バティにはそれができない。誰もが羨む裕福な環境。欲しいものは手に入る。それでも本当に欲しかったアンの愛情はハリスへと向かってしまった。その夜、彼はいつまでも酒を煽っていた。

 バティの愛に応えられないアンも傷ついていた。アンは、「誰もいない所へ連れて行って」とハリスに頼む。ハリスは、子供の頃、使っていた森の隠れ家にアンを案内する。二人を追いかけてきたバディに悲劇が起こる。それを知らないまま、ハリスとアンは一夜を共にした。

 翌朝、アンとハリスは手を繋ぎ、幸せそうに別荘に戻る。そこではバティの母、ウィッテンボーン夫人が泣き叫んでいた。アンとハリスは惹かれ合いながらも、強い罪悪感にかられ、別々の人生を歩んでいく。




 それからのアンの人生は夢見ていた通りにはならなかった。二度の結婚と離婚。長女のコンスタンス、次女のニナを抱えたまま、クラブ歌手の仕事を続けた。ドレスを着ると、ママは出かてしまう。娘たちはいつも寂しい思いをしていた。

 歌手としても名を成すことはなかった。良い妻にも、母親にもなれず、中途半端なまま人生の幕を閉じようとしている。混濁する意識の中で、かつての取り返しのつかない過ちと、ハリスとの未来をあきらめた自分への後悔。死の床にあるのに、アンの胸にはやるせない思いが募っていた。

 夜勤の看護師が重要な役割をする。夢とも、現とも着かない中で、アンは彼女と最後の対話をする。その看護婦だけに、本当の胸の内を明かす。過ちを犯してしまった。彼女は後悔も懺悔も必要はないと暗示する。それも全て抱えてこその人生だから。

 自分たちを置き去りにして夜な夜な、ドレスで着飾り、出かけていく母親。幼心に、感じた寂しいは忘れられない。それでも、今では二児の母親となったコンスタンスには、母親の悩みや苦しみがようやく理解できるようになった。

 ニナは恋人のルークとの関係について悩んでいた。彼と一緒にこれからも過ごしていってよいのか。選択に自信がもてないニナは、子供を欲しがるルークにも、苛立ちながら、曖昧な態度で接している。

 ニナは妊娠しているのを知った。どうしても、ルークに話せない。アンの意識が戻った時、妊娠を知らせた。アンはニナに、「赤ちゃんはすばらしい存在よ」と答えた。そんなふうに自分たちのことを思っていてくれていたのか。ニナは初めて母親の気持ちを確認していた。

 自動車のクラクションが鳴る。二人で外に出ると、初老の品の良い女性がタクシーから降りてきた。彼女はライラと名乗り、母親のかつての親友だと告げる。二階のアンのところに案内する。

 最初は誰が訪ねてきたのかアンはわからない。ライラだと告げると、彼女は微笑んで、ライラの手をとっていた。何十年もの歳月は、もう二人の間には存在しなかった。あのライラの結婚式の日のように、二人はベッドで語りあう。

 アンは人生が望み通りにはならなかったことへの寂しさと後悔を口にする。ライラはアンに諭す。結婚式で歌ってくれたあなたが、どれほど輝いていたのか、それからの私の支えになってくれたかを。叶わなかったハリスへの思いを断ち切り、愛されることにかけたライラ。

 アンは聞きたかったに違いない。「あなたは幸せな人生を過ごしたの」と。ライラは静かにアンに語る。「私たちは、それぞれすべきことをしたのよ」。その言葉を聞いたアンは、ようやく安堵し、満ち足りた思いに微笑んでいた。

 最後の別れの後、ライラは階下に降りてきた。二人の娘は、そこで初めてハリスのことを聞く。そんなことが母親に起こっていたのかと、顔を見合わせる二人。ライラは「人生はミステリアスなものよ」と語り、タクシーで去っていった。

 二人はアンの元へ戻ると、彼女は「幸せになろうと努力して。なぜなら、人生に過ちなんてないのだから」と語った。

 最初に戻ろう。これから起こることはいつも偶然で、起こってしまったことは必然に思える。その必然は、過ちも含めて、全て自分自身が引き寄せたこと。後悔で胸苦しくなる時もある。酷く傷つけてしまい、懺悔でもしなければならない人もいる。それでも、まだ途上にあるから、すべきことをしたとは思えない。

 何十年かの付き合いの友人がいる。久し振りに会った昨年のことだ。突然、不思議なことをいいだした。宗教を始めようかと思っている。どうせ冗談。「予め許されているんだよ」と。彼が今、どんなにか苦しい状況にあるのかは知っている。自分自身に向けた言葉だったのかもしれない。それでも、一時だけでも。救われたように思えた。


監督:ラホス・コルタイ
原作・脚本・製作総指揮:スーザン・マイノット
脚本・製作総指揮:マイケル・カニンガム
撮影監督:ギュラ・パドス
美術:キャロライン・ハナニア
音楽:ヤン・A・P・カチュマレク
衣装:アン・ロス
キャスト:クレア・デインズ(アン・グラント「レインメーカー」)、ヴァネッサ・レッドグレイヴ(アン・ロード)、メリル・ストリープ(ライラ・ロス)、グレン・クローズ(ウィッテンボーン夫人)、ナターシャ・リチャードソン(コニー・ヘイヴァーフォード)、トニ・コレット(ニナ・マーズ「イン・ハー・シューズ」)、パトリック・ウィルソン(ハリス・アーデン)、ヒュー・ダンシー(バディ・ウィッテンボーン)、アイリーン・アトキンス(夜勤の看護師)ほか
2007年/アメリカ・ドイツ/117分
配給:ショウゲート
公式ホームページ

(C) 2007 Focus Features
2008.02.07掲載
エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜(LA VIE EN ROSE)
地上5センチの恋心(ODETTE TOULEMONDE)
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