最新映画、話題作を観るならワーナー・マイカルで!
top pagemovieスクリーンの向こうへ(バックナンバー)











 ショートバス(原題:Short bus)。

 ニューヨークにあるアンダーグラウンドのクラブ。ジェンダーも人種も社会的地位も、何の制限のない乱痴気騒ぎが夜な夜な繰り広げられている。

  監督は、5年前に公開、世界中を熱狂させた「ヘドウィグ&アングリーインチ」のジョン・キャメロン・ミッチェル。主演はラジオDJとしても活躍するカナダ出身のリー・スックイン。

 キャストを選ぶオーディションに際して、監督のジョンは、「実際のセックスシーンを撮影するのを承諾する」との条件で出演者募集の広告をニューヨークの新聞に載せた。

 愛を求めてニューヨークを彷徨う7人の男女の物語。描かれているのはリアルで過激なセックスシーンと、そこに込められた愛と希望のメッセージだ。

※ショートバス
・アメリカの黄色いスクールバスの短い版のこと。普通の子供は長いスクールバスに乗って学校に行くが肢体不自由児、精神障害児、あるいは天才児など"特別ケア"が必要な児童のためのバス。


 2007年夏 シネマライズほか全国順次ロードショー。




 ニューヨーク。9.11後の世界を暗喩するシンボルとなったグラウンド・ゼロを見下ろす部屋でSM女王のセヴェリン(リンゼイ・ビーミッシュ)は馴染みの客を待っている。プレイが終わった。部屋に一人で残り、悄然としているセヴェリン。今日もまた一人ぼっちで過ごす夜が待っている。

 ジェイムズ(ポール・ドーソン)はビデオカメラを片手に部屋で自慰を撮影しようと企んでいる。全裸で身体を丸め、自らを口に含もうとする。駄目だった。結局、いつもの方法で果ててしまう。

 バスタブに身体を沈めた彼は、指からしたたり落ちる水滴を眺め、泣いている。どこにもっていけばよいのかわからない孤独感。傷口をえぐられるような痛さがしみてくる。

 そんな彼の行動を隣のビルの窓からストーキングしているのがカレブだ。彼は、白い清潔なシャツを着て、ノーマルを装っているが、ジェイムズに近づきたいとの強い思いを隠している。

 ジェイムズが一緒に暮らしているパートナー、ジェイミー(PJ・デボーイ)が帰ってきた。二人は一時も離れていられないとでもいうように、肌を触れ合う。そんな二人を隣からカレブは日々、盗み見ている。

 別の部屋が映し出される。ソフィア(リー・スックイン)と夫ロブ(ラファエル・バーカー)は、アクロバティックに愛し合った後、ベッドでまだじゃれ合っている。

 ソフィアは満ち足りた顔でロブに話しかけている。ロブも夫としての役割を果たしてほっとしている。セックスが大好きなだけで、どこにでもあるような普通のカップル。

 ジェイムズとジェイミーは、ある日、恋愛カウンセラーをしているソフィア(リー・スックイン)の元を訪ねる。「僕らはもっと相手を広げようと思って....」。二人の関係の中に、別の男を引き込んで、二人の関係がどのように変わるのかやってみたいというのだ。

 最初は二人の話をカウンセラーとして冷静に聞いていたソフィア。セックス・ライフの追求にどん欲なクライアント。人知れず悩みを抱えているソフィアははっと我に返る。そして、ちょっとした行き違いでソフィアはジェイミーを殴ってしまう。

 どうしてそんなに苛立っているのか。謝るソフィア。彼女は、二人にオーガズムを味わったことがないのを告白する。カウンセリングを受けにきたのはこっちの方なのに、と顔を見合わせるジェイムズとジェイミー。




 そんなソフィアにジェイムズとジェイミーはブルックリンにあるサロン"ショートバス"を紹介する。何かを変えたい。もっと自分を解放してセックスを人生を楽しみたい。やがてソフィアは、"ショートバス"に足を踏み入れる。

 妖艶な微笑みを浮かべながらソフィアを迎えたのは女主人のジャスティン・ボンド(本人)。「"ショートバス"の意味を知ってる? ここは少し変わった、特別な人たちが集まる場所なの」。そこでは男女も年齢も肌の色も全てが混ざり合った混沌の中で、誰もが愛し合っていた。

 やがて登場人物の抱えているトラウマが次々と明らかになる。ソフィアは「誰かに殺すと脅かされながら作り笑いでごまかすみたい」と告白するほどセックスにプレッシャーを感じていた。

 SM女王のセヴェリンは「もう女王様はいや。普通の暮らしがしたい」とソフィア告白する。彼女はこれまで一度も、普通の人間関係の中で誰かと触れ合ったことがなかった。泣いているセヴェリンをソフィアは優しく抱擁する。

 ジェイムズは「12歳の頃に僕が探し求めてたものを僕は未だに探しているんだ」.....と語り、少年時代に男娼をしていたことを語り始める。

 ニューヨークの停電シーンが映し出される。ニューヨークの模型を作り、停電シーンを撮影する予定だったが、監督のジョンには、そこまでの予算がなかった。

 そこで彼は、「ヘドウィグ&アングリーインチ」のアニメーターであるジョン・ベアに依頼し、手書きの絵画風タッチのコンテを作ってもらった。そのコンテをスキャニングし、3次元のアニメーションに展開したのが、その停電シーンである。

 ニューヨークの街が絵画風にデフォルメされている。この手法の方が現実なのか、夢なのか、混沌とした作品に相応しかった。

 音楽も素晴らしい。それぞれの存在を相手にとけ込ませるかのように、登場人物たちが見つめ合い、抱き合う"ショートバス"での最後のシーン。流れるのは「IN THE END」という歌だ。

We all bear the scars,
(誰もが痛みに耐えている)
Yes, we all feign a laugh.
(そうさ、作り笑いしてるのさ)
We all sigh in the dark,
(暗闇で溜息をついて)
Get cut off before we start.
(舞台に立つのはいつも一人さ)
And as the first act begins,
(第一幕が始まる時)
You realize they're all waiting
(もう観客が待っている)
For a fall, for a flaw,
For the end.
(君のの失敗やドジや終幕を)
There's a past stained with tears.
(涙の染みついた道で)
Could you talk to quiet my fears?
(僕の畏れを鎮めてほしい)
Could you pull me aside
(すぐそばに呼んで)
Just to acknowledge that I've tried?
(よく頑張ったとほめてほしい)
And as your last breath begins,
(命が終わる時)
Contently take it in
(満足して息を引き取れるように)
Because we all get it in the end.
(人は誰もがいつか死ぬのだから)
And as your last breath begins,
(人は臨終の床で気づく)
You find your demons'your best friend
(心に潜む悪魔こそ最良の友人だと)
Yes, we all get it in the end.
(最後には、そうだとわかるのだから)




 監督のジョンは、多用せざるを得なかった"ぼかし"についてインタビュー(最新記者会見/2007年6月20日掲載)の中で答えている。

『まず、この表現規制はとても残念なことだと思っています。見る人も大人なのに、大人が何を見れるか見れないかということを第三者が決めるのはオールドファッション。子供が見るものに対する規制であれば理解できますが。でも、日本で見てもらうためにはしかたがなかった。韓国では、禁止されてしまって、ひどいことだと思いましたが、韓国の友人には「ダウンロードすればいいよ」と伝えました。』

 ぼかしばかりが目立つ作品。レビューには「過激なセックスシーン」の文字が踊っている。下世話な興味でいえば、この作品の出演者たちは本当にセックスしていたのか。でも、それはどうでもよい。

 アダルトビデオ。セックスを撮影してしまう。インターネットで、誰でもダイジェストを見られる。こんなに可愛い女の子がという決まり文句も意味をなさないほど、セックスが消費されている。
 しかし、どこか、この作品とは違う。アダルトビデオは、その「行為」が労働のように思えてしまう。アダルトビデオには、ジェイムズが「僕は愛で包まれている。だけど皮膚の中にまで浸透させられない...」と語ったように、セックスで繋がろうとしても、所詮、難しいかもしれないという哀しさがない。

 以前、若者相手の深夜の討論番組で、ことさら反語的ないい掛かりをつける自称評論が、参加していたアダルトビデオ女優に向かって、「金をもらってセックスしてるんだから娼婦と一緒だ」と語った。その女優は「仕事としてプライドをもっている」と反論した。それぞれ何処かに嘘と意図的な自己慰安が含まれている。それを思い出すと、やるせなさに突きあたる。

 最近、人気の高いアダルトビデオ女優のブログ消滅がインターネットで話題になっている。日常生活をイラスト付きで掲載していて面白かった。消えたというよりも、所属プロダクションがブログ領域を削除したに違いない。彼女の商品価値がなくなるような何らかの事情があったのだろう。

 心がこもっていないセックスはなどというつもりはない。労働としての「行為」のようなセックスは、物理的な摩擦による快感は伴っても、女優たちの中に、何らかの傷を蓄積し続けていると思う。

 この作品は、アダルトビデオの対極にある。行為の有無はどうでもよい。裸の美醜も、快感の有無もどうでもよい。大統領選への皮肉からだろうか。元ニューヨーク市長という老人が登場する。彼が語った言葉がとてもよかった。「私たちはもうあらかじめ許されているのだよ」と。消えてしまった、その女優にそのことを伝えたくなった。

Shortbus [Soundtrack] [from US] [Import]
監督・製作・脚本:ジョン・キャメロン・ミッチェル
キャスト:リー・スックイン、ポール・ドーソン、PJ・デボーイ、リンゼイ・ビーミッシュ、ラファエル・バーカー、ジェイ・ブラナン、ピーター・スティクルス、ジャスティン・ボンドほか
2006年/アメリカ
配給:アスミック・エース
公式ホームページ (日本語)

(C) 2006 Safeword Productions LLC.


2007.07.25掲載
ボルベール<帰郷>(VOLVER)
君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956(Children Of Glory))
movie





Copyright (C) 2012 Archinet Japan. All rights reserved.