iTunes Music Store(Japan)
top pagemusic>08.02_Vol03>Back Number











 3月になると、知り合いの中に、定年を迎えて退職する人が何人かいる。昨年は、2007年問題、団塊の世代が大量退職との文字がメディアで踊っていた。シニアマーケットも活況で高級外国車が売れていたそうだ。子育ても、ローンも終わった。退職金も出る。手が届かなかった高級外国車でも買ってみようかというか。老舗楽器店では30数万円もするフェンダーのギターも前年比で倍程度売れていた。

 うかれていたら、消えた年金問題が発生。お国を信用していたら、こんなことになってしまった。株価も低迷し、景気は一挙に不透明さを増した。もう一度、定年後のライフスタイルを改めて考え直さなければならないのか。そんな先輩達を見ていると、十分に若いし、まだまだ働ける。でも、話しを聞くと「もう会社奉公は沢山だ」との声も聞こえてくる。

 そんな中で、かつての60年代、70年代を再確認する動きもある。話題となったのが「ザ・フォーク・クルセダーズ」か再結成。オリジナル・メンバーの加藤和彦とアルフィーの坂崎幸之助で限定復活した。

 フォークルといえば、「帰って来たヨッパライ」と共に、南北朝鮮問題の背景もあり、「イムジン河」も再び、注目された。




 「イムジン河」。井筒和幸監督の映画「パッチギ(第一作)」を思い出す。映画の背景は、1968年の京都。当時の京都は学生運動も盛んで、沢山のロックやフォークグループも活動していた。

 映画の中では日本と在日朝鮮人の高校生がケンカに明け暮れていた。在日の女子高校生が歌ったのが「イムジン河」。それを聞いた日本の男子高校生との間で交流が始まる。

 当時ほど、在日のひとたちへのあからさまな差別はなくなったのかもしれない。両国の関係は、2002年のワールドカップ開催や韓流ブームで随分と変わった。メンツが絡んでギクシャクしているのは政府の側だけ。民の方は、とっくに未来志向で動いている。

 それでも中学時代のある出来事が忘れられない。遠足の帰り、一台のバスが遅れた。そのバスに乗っている生徒の家に、教師から帰宅が遅れるのを知らせて欲しいと名前の書かれたメモをを渡された。住所を探した。表札に名前がない。そこには超鮮名が書かれていた。
 彼女が在日とは知らなかった。どうすればいいのか。躊躇していたが、思いを決してドアフォンを押した。出てきた母親に、そのことを知らせて、自宅に向かっていると、彼女が歩いてきた。とっさに彼女に朝鮮名で呼びかけた。その時の、きりっとした笑顔が思い出される。3ヶ月がたった卒業式の日、彼女はチマジュゴリ姿でやってきた。




 ハッチギが話題となっていた頃、評論家で三井物産戦略研究所所長の寺島実郎が朝日新聞にこんな寄稿をしていた。「かつて60年代に団塊の世代が提起した問題は何ら解決されていないのではないだろうか」「個人的な安定に潜り込むのではなく、もう一度、社会的な関心に戻るべきではないだろうか」との趣旨だった。

 「もう会社奉公は沢山だ」というのも理解できる。それでも、そろそろ始まった「個人」としての「まとめ」の時期と相まって、もう一度、社会(もう会社はいいけれど)へと向かうべきなのかもしれない。とても難しいことだが、どこかで、ハッとさせられた。

 小田和正のアルバム「個人主義」に納めている「the flag」という歌が団塊の世代の中で静かに話題になっているそうだ。

 (前略)
 あの時掲げた 僕らの旗だけが
 今も揺れている 時の風の中で
 (中略)
 ここから 行くべき その道は どこかと
 できるなら もう一度 捜さないか
 戦える 僕らの武器は 今 何かと
 それを見つけて ここへ 並ばないか

 米国では大統領予備選。民主党ではオバマが勝ちそうな勢い。ヒラリーを支えているのは団塊世代の女性たち。男たちはどこにいったのだろうか。蕎麦打ちもしつつ、僕(たち)の旗も探せるかもしれないのに....。フォークルというグループと「イムジン河」という楽曲を振り返るとき、時代を超えて、今でもさまざまなことを考えさせられる。


タイトル ザ・フォーク・クルセダーズ/フェアウェル・コンサート
曲目 ※1968年10月17日解散コンサートライヴ 大阪フェスティバルホール
ヨルダン河/コキリコの唄/イムジン河/ぼくのそばにおいでよ/オー・パパ/フォークル節/水虫の唄/戦争は知らない/ひょっこりひょうたん島/動物園へ行こう/きつね/カエルの恋/イムジン河/悲しくてやりきれない(全14曲)
演奏 ザ・フォーク・クルセダーズ
レーベル:avex
収録:68(ライヴ)

前回< >次回





Sony Music Shop
Copyright (C) 2012 Archinet Japan. All rights reserved.