   |  |
 チェット・ベイカー。かつてマイルス・デイビスと人気を二分した白人のトランペッター。若い頃は髪をオールバックにし、ジェームス・ディーンのように美しかった。
彼の歌声を初めて聴いた人は驚くはず。まるで女性のような声色。彼は「ニューヨーク」と題したアルバムを残している。まだ、夏もこれからだというのに、彼のトランペットを聴いたら、あの街の秋が恋しくなった。
 |
| 終わりなき闇
チェット・ベイカーのすべて・ジェイムズ・ギャビン(著)/鈴木 玲子(翻訳)/河出書房新社 |
チェット・ベイカー(Chet Baker)。1929年12月、オクラホマ州生まれ。1950年代、東海岸で興隆したジャズと相対するように西海岸でもウエストコースト・ジャズが注目を集めた。彼は、ウエストコースト・ジャズを代表するアーティストの一人。
チャーリー・パーカーのグループで活躍した後に、1954年、「Chet Baker Sings」を発表、代表作となった「My Funny
Valentine」でヴォーカルを披露している。
1950年代後半からドラッグ漬けとなり、数々のトラブルを起こし、イタリア公演時には逮捕されている。ドラッグでハイになり、喧嘩も日常茶飯事、トランペッターには命のような歯を折られ、演奏は休業、生活保護を受ける。同じトランペッターのディジー・ガレスピーの支援を受け、ようやく復活し、1975年からは活動拠点をヨーロッパに移す。
 |
| Let's
Get Lost |
ファッション・カメラマンのブルース・ウェーバーによる自伝的ドキュメント映画「Let's Get Lost」には彼の貴重な演奏シーンが収められている。
訃報は突然届いた。1988年5月13日、彼はオランダ、アムステルダムのホテルの窓から転落して、死亡した。 転落の原因は明らかではないが、一説では自殺ともいわれている。何故か、彼らしい最後だと思ったのを覚えている。
当時、多くのジャズ・ミュージシャンはドラッグを乱用していた。マイルスのようにドラッグから帰還したものもいたが、多くは若くして命を落としている。彼がドラッグ漬けとなった原因は本当の処はわからない。それでも、演奏を聴くと、底知れない孤独感を感じる。命を削るように、何かを代償にして、素晴らしい演奏を残したとしか思えない。
「Let's Get Lost」は死後まもなく封切られ、アカデミー賞ドキュメンタリー部門にノミネートされた。
彼の演奏は多くの映画で用いられている。2000年、封切られたオータム・イン・ニューヨーク(原題：Autumn in New York)。ヒロインのシャーロット(ウィノナ・ライダー)が恋人のウィル(リチャード・ギア)とパーティー会場にやってくる際に、効果的に使われている。楽曲は「Polka
Dots and Moonbeams」。
高級レストランを経営、ガールフレンドを次々と代え、独身生活を満喫している中年男のウィル。恋愛などするものではないと、とこかで冷めている。
ある日、セントラルパークを散策中、突然、ガールフレンドに別れを切り出す。それを石橋の下をボートで通りかかったシャーロットが見ていた。やがて彼女の誕生パーティーがウィルの店で開かれ、二人は再会する。
シャーロットは22歳の美術学生。帽子のデザイナーを志している。彼女には秘密があった。癌に冒され、余命いくばくもないと宣告されていた。
命を終える前に、本当の恋をしたい。誰かを愛したい。そんなシャーロットの思いは、世の中を斜に構えて生きていたウィルの心を解きほぐしていった。
二人は恋に落ち、デートを重ねる。舞台は一年中で最も美しい季節を迎えた秋のニューヨーク。ロックフェラーセンターのスケートリンクや落葉で黄金色に輝くセントラルパーク、ブロンクス公園の植物園などニューヨークの名所が登場する。
 |
| 全曲、試聴可 |
「Polka Dots and Moonbeams」が収められているのはバラード中心に構成されたアルバム「Chet Baker in
New York」。録音は1958年9月。
後年、死を前にした彼の演奏には鬼気迫るものも多いが、このアルバムでは、聴くものをリラックスさせるような暖かみあるバラードを演奏している。このアルバムからもう一曲、お奨め。Blue
Thoughts(物憂いブルーな思い)を聴くと深い憂いを感じる。
1. Fair Weather
2. Polka Dots and Moonbeams
3. Hotel 49
4. Solar
5. Blue Thoughts
6. When Lights Are Low
7. Soft Winds [*]
◆ongen(試聴)
◆リッスンジャパン(試聴)
|
|
 
|
