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 2月27日、一日だけ流されたニュース。あるグラビアアイドルの写真集出演が校則に反した芸能活動であり、学校側の退学処分は有効との判決が東京地裁八王子支部から出たというものだった。

 アイドルの名前や退学処分とした学校名などは「アイドル 写真集 退学」とGoogleで検索すればすぐわかる。ニュースでは、芸能活動はやめるので復学し、卒業したいと涙ながらの彼女のコメントも流された。

 判決内容の報道によると、2004年4月、そのアイドルは名門といわれる某私立高校に入学、6年7月に写真集を発売、9月には週刊誌のグラビアに水着姿が掲載された。学校側は「在学中の芸能活動を禁じた学校の指導方針を大きく逸脱した」として10月に退学処分とした。アイドル側は校則を知らなかったと主張していたが、判決では、ホームルームなどでも芸能活動の禁止は告知しており、それを知らなかったとは考えられず、学校側の退学処分は有効だとした。

 このニュースには、多くの人が薄々は感じていながら、語られない影の部分がある。

 校則ついては、本質的には、それが未成年対象であったとしても憲法が保障する基本的人権を侵害するのかが問われるべきだろう。今回の場合、裁判所の判決はその部分には触れず、あくまでも校則の存在を前提としている。アイドル側も、その部分では争っていない。

 語られない影の部分とは何だろうか。それはアイドル写真集やDVDに登場する少女たちが性的イメージを喚起する商品となっていることだ。芸能活動とは広範に及ぶ。仮定の話だが、彼女の活動が歌手であったり、映画出演などであっても退学処分の対象となったのだろうか。

 アイドル写真集。書店に行けば、コーナーが設けられ、大量に山積みされているし、インターネット上には違法コピーの画像が溢れている。表面上は、純真で可愛い少女たちの姿を活写した写真集やDVD。実態は、性的イメージを喚起するための商品。

 学校側が許容できなかったのは、在学生が写真集に出演したことよりも、それによって彼女が性的イメージを喚起する商品となったことだ。内容は明らかでないが、保護者からも学校側へ多くのクレームが寄せられたという。その中には、それらの指摘もかなりあったと推測できる。少女たちを性的対象とするさまざまな商品が巷に溢れている。学校や保護者は彼女たちは、そんな現状から彼女たちを守ろうとし、「良妻賢母」という安全地帯で育てようとしている。そんな現状のギャップには対応できていない。

 退学処分の無効を申したてたのが、アイドル本人だとすると、彼女にも、そんなギャップへの認識の誤りがあった。それは写真集に出演し、公の市場に登場するとは、自分自身が性的イメージを喚起する商品となるとの認識が抜け落ちていることだ。
 そんなことはわかっていたのかもしれない。彼女には、自分自身を商品として、芸能界でのし上がっていく権利はある。

 現状では、少女たちを性的イメージを喚起する商品とする写真集やDVDの善し悪しを語っても意味はないだろう。ニーズは存在するし、そのことに気がつきながら、それをビジネスとする企業もある。そこに登場する彼女たちの野心も認めざるを得ない。

 このような状況が存在してしまっていることにどのように対応すればよいのだろうか。それは「性的な」問題の存在を隠さないことだ。

 困難が伴うと思うが、保護者、学校側は、写真集やDVDに出演する際には、自身が性的イメージの対象となるリスクがあることを説明し、共に考え、その上で、出演の可否を個別に決定する。少女たちも、そのリスクと野心のバランスをとれるか自らで判断する。

 そのアイドルがどのように生きていくのかはわからない。芸能活動はやめるので復学し、卒業したいと思うならば、最初から、そんなことはしないことだというのも、もっと闘うべきだというのも無責任だ。

 彼女は大きな傷を負ったと思う。こんな風に考えてみたらどうだろうか。女性性(男性性もだが)を公共の場に露わにすれば、性的イメージの対象となるリスクがある。性的な存在としての男女が共に尊厳をもちうるのは、良い意味で閉ざされた個人の関係性の中だけであると....。

 インターネット上には、アイドル写真集やDVDを遙かに越える過激な映像が流れている。以前、若者相手の深夜の討論番組で、ことさら反語的ないい掛かりをつける自称評論家が、参加していたアダルトビデオ女優に向かって、「金をもらってセックスしてるんだから娼婦と一緒だ」と語った。
 その女優は「仕事としてプライドをもっている」と反論した。それぞれ何処かに少しばかりの嘘と自己慰安が含まれている。それを思い出すと、やるせなさに突きあたる。

 自由な市民社会では、現実の行動が法律に反しない限り、アダルトDVDの存在も、それへの出演も許されている。心がこもっていないセックスはなどというつもりはない。労働としての「行為」のようなセックスは、女優たちの中に、何らかの傷を蓄積し続けていくと思う。そのことだけは知っておくべきだと思う。
 
[2008.03.03]

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