top pageothers>08.10_Vol01













 年金問題。宙に浮いたり、消えてしまったりした年金。今度は「消してしまった」年金問題が露見した。

 テレビの報道番組的にいえば「制度疲労」、責任の一端があるだろう政権与党の政治家的にいえば「日本の危機」。自民党の総裁選挙でも話題になったが、どこか人ごとのよう。それでも民草の生活は続いている。

 基準となる月額報酬を意図的に下げ、収めるべき年金額を低くする。それによって徴収率を上げる。かなり以前から薄々、誰もが気がついていた事態。知らなかったのは議事堂の中の先生たちだけ。

 こんな経験がある。恥ずかしい話しだが、かつて経営していた会社の売上が減少し、社会保険料を滞納した。何度か督促状が届き、社会保険事務所に出向かなければならなくなった。担当として窓口でやってきたのは茶髪(偏見があるのではないが)のまだ20代と思われる青年だった。最初から苛立っており、見下すような視線。面倒だから早めに済ませたいとの思いも見え見えだった。

 彼の口から出てきたのは驚くべき言葉だった。「先づけ小切手をすぐに発行して欲しい」。小切手は現金と同等だ。該当する金額が銀行口座になければ不渡りとなる。まるで街金融のような要求だった。後ろめたさもあり、仕方なく、次の日に先づけ小切手を届けた。
 彼は若かったので、強硬措置に出ただけだ。担当者によっては、報道にあるように基準月額報酬の引き下げ=収める年金額の減免を提案するケースもあったのだろう。

 この話には後日談がある。友人が経営不振で会社をたたむこととなった。その段階で先づけ小切手を切ってはいけないと、前述の事態を知らせるべく、彼の事務所を訪ねた。彼は別室で誰かと話し合いをしていた。戻ってきた彼に聞くと、社会保険事務所の某係長だったという。

 会社をたたむ際、税金などが債権の最優先順位を占める。滞納した社会保険料はどのような扱いに.....。その某係長の口から出たのも不可思議な言葉だったという。

「滞納保険料を支払っていただけるような状況でなければ、免除します」。彼としてはありがたい話しだが、会社として税務申告もしているし、「税務当局から後々、追求されるのでは...」。すると某係長は「社会保険事務所は税務署と別組織ですし、情報も共有していないので、こちらとしては免除できます」と語ったという。

 もう誰もが理解できるだろう。社会保険庁は税務当局とは情報共有することのない独立性をもっており、その独立性故か、ほぼ自動的に集まってくる保険料を自由裁量できるのだ。その自由裁量できるとの独立性が結果として、全国各地に経営感覚もないまま保養施設などを乱立させ、マッサージチェアから野球クラブの道具までの購入に走らせた。

 かつて美しい国を標榜した戦後生まれの宰相は、一人残らず年金問題は解決すると公式に語った。言葉が軽すぎる。彼は末端の社会保険事務所の窓口で、これらの事態が日常的に起こっているのは知らないだろう。先づけ小切手を切れとは酷い話しだったが、そこで月額報酬の引き下げを提案されたら受け入れていたかもしれない。

 それらの措置をとったのは酷い経営者だ、会社だというのは簡単だ。ひとつのシステムとして社会保険事務所に連綿と受け継がれてきた手法とそれを行った役人の責任を糾弾するのも簡単だ。

 今回の事態は「制度疲労」ではない。年金制度自体が存在しなかったようなものだった。さて、ではどうするのか。余りにも深い闇なので、個人の力量では最善の解決策を考えべくもないが、少しでも改善できる施策をどの政治勢力が提案し、速やかに立法化されるのか。それを見ていたい。

[2008.10.08]

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