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 輝ける女たち(原題:Le HEROS DE LA FAMILLE/英題:Family Hero)。フランス映画祭2007 オープニング作品。

 監督はティエリー・クリファ。2004年、劇場用長編映画の第一作「あなたを待つ人生」で成功を手にする。大学で映画論を専攻、卒業後はジャーナリストとして雑誌「Studio Magazine」で11年間、映画についてのテキストを執筆した。感情を控え目に秘めつつ、静かに登場人物たちを描く手法にはジャーナリストとしての視点も息づいている。

 決して、どこにでもあるわけではないが、長い時間を経て、和解へと向かう家族の物語だ。

 主演はカトリーヌ・ドヌーヴ。セザール賞主演男優賞のジェラール・ランヴァン、「美しき諍い女」のエマニュエル・ベアール、名バイプレヤーのミュウミュウ、そしてジェラルディン・ペラスとミヒャエル・コーエンが妹兄を演じる。

 2007年4月14日(土)よりBunkamuraル・シネマほかにて全国ロードショー。

 ニースにある古いキャバレー「青いオウム」。オーナーのガブリエルを中心にして集う家族の物語。そんな家族がかつての諍いの記憶を抱えたまま、ガブリエルの死で一堂に会する。ある者は失った愛を新しい愛で取り戻そうとし、ある者は古い傷を和解で癒そうとする。キャバレーで展開される若々しい踊り子たちのレビューも観るものを圧倒する。60年〜80年代を飾った楽曲をジャジーにカバーした女優陣のボーカルも秀逸。




 煙草の煙と酒の香りがスクリーンから漂ってくるような物憂いキャバレーのシーンから物語は始まる。オーナーとおぼしき老紳士はなじみの客に親しげに挨拶している。傍らにはニッキーと呼ばれている初老の男が寄り添っている。二人はどんな関係なのだろうか。まだ明らかにはされない。

 老紳士は、「今日は疲れたから帰る」と、ニッキーに告げ、店をあとにする。外に出ると、石畳が雨で濡れていた。老紳士は何故か、心に決めたものでもあるかのような表情で上空を見てあげている。「青いオウム」。その店の名前のネオンサインが湿気を帯びた夜の空気の中に煙っていた。

 著名な雑誌の編集長として成功をおさめているマリアンヌ(ジェラルディン・ペラス)は離婚調停中の夫と言い争っている。「離婚するのに何故、養子をもらうんだ」と夫は彼女の気持ちを理解できない。

 やり手会計士として活躍しているニノ(ミヒャエル・コーエン)はゲイだ。大学生の若い恋人と朝のベッドで戯れている。二人は異母妹兄。そんな二人にガブリエル(クロード・ブラッスール)の訃報が届く。「おじいさんが死んでしまった」。

 すぐにパリをたち、同じ飛行機でニースにやってくる。機内でお互いの存在を知ったのに会話もなかった。
 パリでエスタブリッシュした二人は「青いオウム」のいかがわしさに馴染めない。店で待っていた初老の男ニッキーは彼らの父親だった。やがて母親のシモーヌ(ミュウミュウ)も現れ、家族は再会する。




左からニッキー、マリアンヌ、ニノ、シモーヌ。
 ガブリエルの遺言の内容が四人に明かされる。そこには自宅と「青いオウム」の不動産は異母妹兄が相続すると書かれていた。

 40年近くガブリエルと共に「青いオウム」を経営してきたニッキーに残されたのは着古された舞台衣装だけ。納得がいかない。

 パリで成功した二人は一刻も早く、元の生活に戻りたかった。「青いオウム」を続けても赤字が累積するだけだと売却処分を主張する。
 ニッキーの前にガブリエルが幻影のように現れる。ニッキーは「何故だ」と不満をガブリエルにぶつける。すると、ガブリエルは「私を信じなさい」と告げて、消えてしまう。

 かつてニッキーとシモーヌは手品を演じるコンビを組んでいた。二人はフランスの植民地であったアルジェリアの出身。フランス本国にたどり着いた後も、差別の中で、芸能とそれを演じるに「青いオウム」によりどころを求め、生き抜いてきた。
 若い二人は、両親の出自が恥ずかしく、自らの努力で、その境遇を抜け出し、それぞれ知的な職業についた。

 物語の中でニノがマリアンヌが問いかける。「どうして養子なんかもらうの」。マリアンヌは「この家族の血を残したくないの」と答える。

 フランスにとってアルジェリア問題は遠い記憶だ。今はイスラム系の移民問題で揺れている。すでにフランスでは本国フランス生まれの人口が50パーセントを切った。この両親と子供たちの間にある亀裂には現在のフランスの抱える問題が内包されている。




 ニッキーは、ガブリエルの死と「青いオウム」が自分の手元に残らないことで気落ちしているかと思うと、店の看板歌手のレア(エマニュエル・ベアール)に色目を使っている。彼女の出番が終われば、何かと理由をつけて、家まで送っていく。ニッキーの出自だけでも気に入らない異母妹兄の二人は、ますます彼を軽蔑する。

 母親のシモーヌは、再婚し、夫と二人で小さな酒屋をやっている。それでも「青いオウム」には未練があるのか、処分に賛成できず、店にやってきて、異母妹兄の二人を説得しようと試みる。二人にはそんな声は耳に入らない。とにかく早く処分してすぐにパリに帰りたいだけだ。

 「青いオウム」。スタッフたちとの契約もあり、すぐに処分もできない。そこでは毎夜のように若々しく、セクシーな肢体の踊り子たちによるレビューが演じられる。物憂げにジャジーな歌を披露するレアも素敵だ。

 猥雑なだけなキャバレー。一刻も早く離れたかったのに、異母妹兄の二人は、少しずつ、その妖艶な雰囲気に惹かれていく。

 ある日、もうひとりの母親であるアリス(カトリーヌ・ドヌーヴ)が四人の前に現れる。何か悪巧みがあってガブリエルの葬儀に立ち会わなかったのか。彼女は今、何をしているのかは明かされない。それでも諍いを続けている四人とは距離をとり、ある時は皮肉を込めて、彼らを煙に巻いている。

 やがて、物語の進行とともに、この家族の複雑な関係が明らかとなっていく。ニッキーとアリスの間に生まれたのがニノ。しかし、マリアンヌはニッキーとシモーヌの子供ではなかった。シモーヌが愛人関係にあったガブリエルとの間に生まれた子供だった。

 ニッキーとガブリエルも血の繋がりはなかった。ニッキーが故郷のアルジェリアを後にし、「青いオウム」に転がり込んだのは15際の時。
 幻影として現れたガブリエルは語る。「まるでこの店の女は全て自分のものだという態度で女たちに接していたよ」「それでこいつはやっていけると踏んだんだ」と....。

 今は仕事も辞め、落ちぶれてしまい、看板歌手の尻を追いかけているだけのニッキー。ニッキーと愛し合っていたアリスとシモーヌはかつての艶物語りを酒の肴にして、笑い合っている。

 一人の男を共用していた記憶が二人の女の中に友情に近い感情を生んだのだろうか。きっと違うだろう。男を共用した記憶ではなく、自身が選択して、その時代を精一杯生きていた記憶が結びつけたのだ。
 いつも女は自分から始まり、自分をヒロインとした物語を紡いでいる。男は記憶の片隅に、色褪せて、張り付いているだけ。どんな状況になっても強いのは女の方だ。



 
 最初は仕方なく、留まっていた「青いオウム」。異母妹兄の二人の気持ちも変化していく。

 マリアンヌの元には、パリの夫から、養子を受け入れてもよいとの便りが届く。これでようやく離婚も成立する。
 マリアンヌは店の若いバーテンダーと一夜を共にする。

 翌朝、少し後ろめたそうにベッドを抜け出す若者の気配を感じたマリアンヌは、仕掛けた獲物がかかったとでもいうかのように微笑んでいる。

 マリアンヌがシモーヌとガブリエルの子供であるのを知っていたアリスは、そのことでショックを受けている彼女に優しく語りかける。

 全てはもう過ぎたことで、今、こうして諍い合いながらも、ガブリエルの導きで家族として集っている。それが母親であるシモーヌの選んだ道だったのだからと....。

 ニノもパリから若い大学生の恋人を呼び寄せる。その恋人が若いバーテンダーと話していると嫉妬して眺めている。すると、シモーヌが彼に語りかける。ニッキーにも当てつけるように「若い恋人の方がいいのよね」と....。

 あんなに落ちぶれて、覇気もなくした父親ニッキーのどこにレアが惹かれているのかニノにはわからない。それでもレアがニッキーを信頼しているのがニノには嬉しい。

 レアも辛い過去をもっている。歌手としての夢を実現するため、子供を夫の元に残し、旅暮らしの連続だった。そんな生活の中で、夫と子供を失っていた。彼女の歌声は、どこか悲しげで、ニノの心の琴線に響いてくる。

 ニッキーが愛しているレア。ニッキーを何故か、信頼しているレア。そんな二人もガブリエルに導かれて集ってきた家族なのかもしれない。




 こうしてマリアンヌとニノはパリに戻ることをやめ、「青いオウム」を続ける決心をする。出自を嫌い続けたとしても、逃げられない。それを認めた上で、現実をどうやって構築するのか。そのことに二人は気づいた。

 そんなこととも知らないニッキーは海岸で裸になり、投身自殺を試みる。再び、現れるガブリエル。「やるなら飛び込まないと駄目だ」。ニッキーは我に返る。

 やがてニューヨークで仕事を見つけたレアは旅立つ。それを見送ったニッキー。飛行機が怖いので一緒にはいけないが、船便で必ず行くと告げ、「ニューヨークでまた話しをしよう」と彼女に優しくキスをする。

 養子をもらいにロシアに旅立つマリアンヌ。赤ん坊を抱いた写真にはアリスも写っていた。シモーヌは「もうおばあちゃんね」.....。

 どこにでもあるような家族ではない。差別の対象となる出自、エスタブリッシュしても逃れられない血の宿命、交換可能性としての入り組んだ男女の関係。
 それでも登場人物たちはガブリエルが仕組んだように、「青いオウム」というよりどころに集い、新たな出会いと別れを紡いで、それぞれの出発を遂げた。Le HEROS DE LA FAMILLE(Family Hero)。家族の誰もがヒーローかもしれない物語。

 最後にマリアンヌは「青いオウム」の舞台に立ち、自らを一本のバラに例えて「LA ROSE(ベット・ミドラーのカバー)」を歌う。誰もが一人で生きているバラのような存在。それでもそのバラは咲くことができるのだからと.....。

 


 テーマは和解です。自分自身との和解、そして他者との和解ですね。両親の人生や出自、過去の愛情、セクシャリティ、成功と失敗。それを人はどこまで理解し、そしてどう受け止めればいいのか..。それは難しい問題です。

 また両親も子供たちの人生をどう受け止めればいいのか...。本作では、さまざまな問題から逃げていた家族が問題から逃げずに向き合う姿から和解することの素晴らしさを描いています。
 

監督:ティエリー・クリファ
キャスト:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジェラール・ランヴァン、ニュエル・ベアール、ミュウミュウ、ジェラルディン・ペラス、ミヒャエル・コーエン、クロード・ブラッスールほか
2006年/フランス・イタリア合作/35mm/カラー/シネスコサイズ/SRD
配給:ムービーアイ
公式ホームページ (日本語)

(C)2006 SBS FILMS EDEL WEISS SRL FRANCE2

2007.04.04掲載
主人公は僕だった(Stranger Than Fiction)
クイーン(THE QUEEN)
movie






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