top pageothers>09.12_Vol01













 メディアが皮肉を込めて語る数億円に及ぶ「子ども手当て」にも関わらず、事業仕分けが鳩山首相の高い支持率を支えているようだ。
 その事業仕分けのハイライトシーンとして、メディアが繰り返し取り上げたのがスーパーコンピュータ関連予算の仕分け作業の際に蓮舫議員から発せられた「世界一でないと駄目なのですか」との言葉だった。そして、その言葉と対比的に取り上げられたのがノーベル章受賞者の利根川進氏の「世界一でないと駄目なのですかなんていっていた人がいましたが...」との発言だった。

 この「世界一」論争を考える前に、事業仕分けを巡る状況を振り返ってみようと思う。政治は致し方なくベターを選択するものだが、その公開性において事業仕分けはベター以上だった。予算編成は結局、限られた財源をどのような分配するかだ。官僚や族議員の都合で分配されたらかなわないと誰もが思っている中で、少なくとも限定的だとはいえ、初めて分配の実際が公開された。

 一方で、この国の多くの人は「議論」が苦手だから、蓮舫議員の「きつい」言い方もクローズアップされた。確かに「言い方」はある。公には誰も語らないが、その背景には「女(性)」が何をいうのかとの潜在的な意識もある。うまい会議のやり方に類する書籍も売れているようだから、今後は、さまざまな局面で、議論=ディベートの訓練をしなければならないのかもしれない。

 テレビでは、バラエティ番組から、報道番組まで、事業仕分け一色となった。その中で、野党となった自民党の議員の発言も紹介された。それら発言の要点は、事業仕分けが民主党の「パフォーマンスだ」というものだった。強い違和感をもった。
 初めて行われた事業仕分けだから、改善の余地は多いだろう。問題は、かつての自民党が、これら新たな施策を一切、打ち出せなかったことだ。政権奪還を目指すならば、「パフォーマンスだ」との発言を封印し、事業仕分けを上回るような、新たな施策を提案すべきだ。
 自民党の議員は、さまざまな番組に登場し、民主党批判を繰り広げている。そこにも強い違和感を感じる。かつて彼らは野党であった民主党を「批判のための批判をしている」と糾弾していた。少なくとも、民主党は、新たな施策を打ち出した。哀しいかな、自民党こそが「批判のための批判をしている」し、そこには新たな提案が一切、提示されていない。このままでは、民主党に大きな失点があったとしても政権奪還は困難だ。

 「世界一」論争に戻ろう。技術論的には、「世界一」であるべきだ。一方で、今回、遡上に上がり、世界一を目指して継続的に開発されるスーパーコンピュータとはどのようなものかは定かではなかった。
 スーパーコンピュータを語る時、よく話題となるのが、例えば円周率計算の最大桁数実現とその速度だ。また温暖化のシミュレータ、気象予測への援用であり、遺伝子解析への援用だ。それらを考えると、「世界一」とは、スーパーコンピュータを何に援用するのかであり、それを実現するためのアイディア、ソフトウェア、社会システムなのではないだろうか。

 もう一点、忘れてはならないことがある。それは「世界一(を実現した時に)」が広く一般にどのように寄与するかだ。
 今ではよく知られているように、インターネットはかつて米国の軍事ネットワークだった。便利なGPSも同様だった。その背景に、何らかの深慮遠謀があるのだろうが、彼らは、それを一般に「開いた」。

 米国では電気自動車開発のベンチャー企業が続々と登場している。電気自動車は、優れた蓄電池さえあれば、既存のモーター技術さえあれば、比較的、容易に作れる。現在、大手のパソコンメーカーは、さまざまな部品を集め、それらを組み立てるだけのビジネスをしている。やがて誰もが電気自動車を作れるようになるのかもしれない。
 注目のスマートグリッドを各家庭レベルで実現するCPU+ネットワーク機能装備の分電盤を開発するベンチャー企業もビジネスを始めた。この国では、いぜんとして電力会社が人的要員を派遣して、電力使用量を確認している。

 インターネットを取り巻く技術のスタンダードも、その多くは米国からやってくる。クラウドでサービスを提供するASP、ブログ、SNS、ドロップシッピング、そしてツイッターなどなど。その代表格はグーグルだ。

 スーパーコンピュータで「世界一」を目指すのはよいだろう。問題は、それを何に援用するかであり、新たな産業や雇用の創出に結びつくスタンダードをいかに実現するかだ。それを抜きにして、売り言葉に買い言葉の議論がなされている内に、また新たなスタンダードが海の向こうからやってくる。

[2009.12.05]

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